VOICE 03
家族との間、外の緑や光との間
- 松本市K様邸 ご家族5人
家族がともに過ごす安心と
プライベートな時間を両立する工夫
住まいには心地良さをつかさどる「間」、距離感が少なくとも二つあることをその家は気付かせてくれました。
まず、家族同士の「間」。Kさんはご夫婦とお子さん2人、奥様のお母さんの5人暮らしです。新築を機に同居を決めたとき、お母さんは「家族の声が聞こえ、生活していることを近くに感じながら、一人の時間も大切にしたい」と話しました。つまり、共に過ごす安心と自律をどう両立するかということ。
二世帯住宅をつくるとき、世代間ののりしろとなる共有部分をどうするかは要点の一つです。中庭を囲むようにL字型にしたK邸は、そのL字の折れ目に浴室を置きました。玄関やLDKは別々ですが、浴室を共用することで、左右に振り分けた各々の生活空間をつないでいます。脱衣室への扉を同時に開け放っていても、よほど覗き込まない限り互いの暮らしを干渉することはありません。浴室という緩衝地帯のおかげで、絶妙な「間」を保てています。
この家では大人3人がそれぞれに仕事をもち、皆で協力して子育てをします。そこで屋内をストレスなく動けるよう、家事動線を意識して回遊性をもたせたり、ウッドデッキを介しても互いの居住空間を行き来できるようにしました。そうした動線が生む協働のリズムも、親子のちょうどいい「間」を手助けしているみたいです。
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玄関アプローチの落ち着きが、この家の世界観を語っているよう。
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ダイニングとデッキのなめらかな連続性が、家を広く使い、外の景色を室内へ取り込むことにも役立つ。
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中庭は、家族だけの空が広がる場所。デッキに出て水入らずの時間を過ごす。
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天井高が低いK邸は、建物高も低くなる。自然と外観は奥ゆかしく美しいプロポーションになり、周囲にも圧迫感を与えない。木部と外壁の色との相性もいい。
天井高を抑えながら
平面に広さを感じさせくつろぎをもたらす工夫
もう一つの「間」は、光や緑、風など外にあるものと暮らしとの距離感です。
実は、施主のKさんはこの家を設計した本人です。建築家・伊礼智さんを尊敬するKさんは、自身の住居で氏の設計へのオマージュに挑戦しました。その際、貫いたのが「家の中で主張していいのは外の緑と光だけ」という考え方です。典型は天井の高さに表れています。一般的な天井高は2400㎜ですが、この家では2235㎜。165㎜下げると窓の高さも低くなります。室内に満ちる光量はおのずと絞られ、外の景色を絵画のように際立たせることができるのです。一方、天窓や小窓によって適度に光を採り入れることで生じる陰影が、上質な空間を演出します。
天井の低さを窮屈に思うことはありません。むしろ広くさえ感じるのは、視線が抜けるよう間取りを工夫したり、窓や建具を天井高まで上げて水平ラインを揃えたり、家具の高さを抑えて空間全体の重心を下げたり、家具を床から離して床面を見せたりなど、緻密な設計を積み上げた成果でしょう。
外の光や緑との「間」を測るものさしを、人は生まれながらにもっています。それが程よいと思えるとき、家は己の存在を感じさせず、ただ住む人にくつろぎをもたらすことになるのです。
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家具の重心が低く、しかも足元の床が見えるので、空間がより広く感じられる。
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天井が低い分、屋内の光が絞られ、視線は自ずと外へ向かう。窓が切り取る景色こそ、ダイニングにとっての無二の粧いである。
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リビングの床にはカーペットを敷き、天井は板張りに。ダイニングと趣は違えども、空間の連続性が心理的な広がりをつくる。
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玄関から真っ直ぐに視線が抜けるキッチン。ここを動線に取り込むことで人の動きの回遊性も生まれた。
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主寝室。造り付け収納の高さを天井まで伸ばし、建具の色を壁紙と合わせた。ここでも整然とした水平ラインを大切にした。
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親世帯と子世帯の生活空間をつなぐ脱衣室&浴室。互いに行き来する動線であり、プライベートの緩衝地帯でもある。
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お母さんの住まい。玄関やキッチンも別だから、友だちが来ても気兼ねなく過ごせる。
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ご主人の書斎。仕事に没頭できるようインテリアは黒を基調にした。奥には趣味のダーツも。
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自然光がじんわりと室内に沁み、グレーの壁、木の床、白い天井に生まれる陰影が美しい。
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大開口の窓に向かって曲線を描く天井が、空間にリズムを生む。天井のルーバーは冷房の吹き出し口と間接照明を兼ねる。
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洗面所とリビングを仕切るのは竹を粗く編んだ簀戸(すど)。閉めても風通しが良く、視線をぼやかす効果も。
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夜の帳が降りて家のあかりが灯る。L字型に囲うことでカーテンがなくてもプライバシーが保たれ、夜でも外を感じながら過ごせる。
OWNER'S VOICEオーナー様の声
- Q1
家づくりで一番大切にしたことは?
家族一緒にいられる安心感と、各々が自律して暮らせる距離感を保つこと。
- Q2
こうしておいてよかった、と思ったことは?
天井高を抑え、落ち着きが出せたこと。時が経ても古びることのないデザイン。適所にある十分な収納。
- Q3
HASHIBA KINOIEに頼んでよかったことは?
建築家に頼めば予算オーバーになるところを、コストを抑えて実現できたこと。
PLAN
DATA
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敷地面積
390.14㎡
(117.78坪)
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延床面積
176.10㎡
(53.16坪)
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1F面積
120.81㎡
(36.47坪)
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2F面積
55.29㎡
(16.69坪)
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デッキ面積
12.19㎡
(3.68坪)
工法/木造在来軸組工法 基礎/ベタ基礎 構造材/柱:県産ヒノキ、梁:米マツ・県産ヒノキ、土台:県産ヒノキ 断熱材/屋根:Green Funen Foam 250㎜、壁:Green Funen Foam 85㎜・Q1ボード30㎜、床:基礎立上りGreen Eco Foam 90㎜・スラブ上Green Eco Foam 45㎜ 主な外装仕上げ/屋根:ガルバリウム鋼板茸き、外壁:マヂックコートコテ仕上げ・一部あづみのカラマツ 主な内装仕上げ/天井:ビニールクロス・一部オーク無垢フローリング、壁:ビニールクロス、床:アッシュ突板フローリング・一部クッションフロア 開口部/樹脂サッシAPW330Low-Eペアガラス(アルゴンガス・樹脂スペーサー)・木製サッシプロファイルウィンドーLow-Eトリプルガラス キッチン/クリナップ STEDIA・食洗機 ミーレ キッチン熱源/IHクッキングヒーター バスルーム/TOTO サザナ 暖房の種類/床下エアコン Air Volley UA値/0.34
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このページに記載されている記事本文、写真等は「住まいNET信州」VOL.37より転載しています。 こちらの情報の著作権は、住まいづくりデザインセンター信州に帰属します。